協会サポーターのご紹介

2023.10.22

マネジメント層だけでなく、
マネジメントされる側も含めた
全員が理解を深める必要があります

大久保幸夫 氏

株式会社職業能力研究所 代表取締役

株式会社職業能力研究所 代表取締役、株式会社リクルート フェロー、一般社団法人人材サービス産業協議会 理事、一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会 理事。これまでリクルートワークス研究所 所長(1999年-2020年)、株式会社リクルート 専門役員(2011年-2020年)、内閣府 参与(2010年-2012年)などを歴任。専門は、マネジメント論、キャリア論、労働政策。

マネジメントとハラスメントの接点:パワハラ背景とマネジメントの必要性

(酒井)弊協会ではハラスメントに関する資格を立ち上げました。組織マネジメントのエキスパートとして、長いキャリアを持つ大久保様に、現代組織におけるハラスメント問題とマネジメントの関連性についてお聞きしたいです。

(大久保)非常に深い問題がありますね。私は、ハラスメント問題、特にパワハラとマネジメントの接点について考えてきました。法制化のずっと前の初期、それこそパワハラの定義を作るところからご縁がありました。元々、厚生労働省の職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議にも委員として参加していました。「パワハラ」という言葉が日本で生まれ、公式に使われるようになりました。実は、パワハラなどのハラスメントが行われる背景には、マネジャーが自分の部下の業績が上がらないことに対して不適切な指導を行ってしまうケースがあります。マネジャーの仕事は「他者を通じて業績を上げること」です。しかし、不適切な叱責や指導が行われると、それは単に相手を傷つけるだけで、組織の業績は上がりません。これはマネジメントの失敗と言えます。

(酒井)それでは、ハラスメント問題を解決するために、マネジメントのスキルや考え方をどのように変えるべきだと考えますか?

(大久保)マネジメントスキルを向上させることで、不毛なハラスメントを減少させることができると信じています。適切なマネジメント手法や教育を普及させることで、ハラスメント問題を根本から解決することが可能であると個人的には考えています。

 
(酒井)そのマネジメント方法や指導の仕方には具体的なものがあるのでしょうか?

(大久保)マネジメントについて、何のためのマネジメントなのかという根本的な話からジョブアサインメント(マネジャーや上司が組織の業績目標を達成するために部下に仕事を割り振ること)までかなり深掘りして教えています。そのためには、最初に組織の目標を決めて、それを部下に割り振って、権限移譲して、それらをモニタリングして、必要であれば支援する。それを完了した後に評価するところまで一連のマネジメント行動を全部細分化する必要があります。そして、繰り返しデータを取って、そのデータ分析をしながら科学的に正解を探るということを行なっています。

(酒井)民間企業のみならず、国家公務員の方はマネジメント研修を受けることは少ないと聞きますが、実際のところどうなのでしょうか。

(大久保)いえ、実は国家公務員も受けています。特に、3年前に私が関わった国家公務員制度の改正では、マネジメント能力を能力評価の中心に据えました。この変更により、公務員も民間企業と同様に、マネジメント能力が必要とされるようになってきています。

(酒井)民間企業は国家公務員と比較して、組織や考えを変更しやすいと思いますがいかがでしょうか。

(大久保)民間企業も変化するのは簡単ではないですよ。しかし少し角度を変えて見ると、国家公務員は法律の枠組みの中で動くため、法律が変われば変革も迅速に行われるように思います。ポイントはマネジメント層だけでなく、マネジメントされる側も含めた全員が参加すること。そして、マネジメントの体系的な理解を深め、組織内での認識の共有が大切です。

(酒井)やはりマネジメントの体系的な理解と組織内での認識の共有が大切なのですね。

(大久保) まさにそうです。共有することで組織の中でのマネジメントの役割が明確になり、ハラスメントのような問題も減少します。マネジメントは、組織を効果的に運営するための鍵ですからね。今後は、一般社員を対象としたセルフマネジメントやキャリア形成の教育も重要になるでしょう。また、マネジメントの講座自体も、実務経験や科学的アプローチを併せ持った講師によるものが求められる時代になると思います。

 

マネジメントの極意: 褒める技術と叱る技術

(酒井)改めてマネジメントの基本についてお伺いしたいです。

(大久保)基本的にマネジメントはコミュニケーションがベースです。そして、強みを認めてあげたり、良い時はちゃんと褒めることが大切です。褒めることは人間の性に合っていますが、叱ることは避けがちです。苦手意識がある方が多いと思います。しかし、マネジャーとして、問題があれば指摘しなければならない。そのため、叱り方のスキルを身につけることも必要です。

(酒井)組織の業績向上のためには、マネジメントがどのような役割を果たすと思いますか?

(大久保)働いている人たちが自分の仕事に夢中になれるような環境を作ることが大切です。そして、その環境の中で、社員全員が自分の能力を発揮し、組織全体の業績を上げるための取り組みが求められます。

(酒井)例えばリクルートのような企業は、なぜ優れたマネジメントを実践できていると思いますか?

(大久保)リクルートは採用段階から、分不相応なくらいに優秀な人材を採用する努力をしています。そして、社員のアイディアやパッションに資金を投じることで、新しい事業やプロジェクトを立ち上げています。マネジメントの成功の秘訣は、部下の主体性を重視すること。「あなたはどうしたいのか?」と常に問いかけて、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すことにありますね。

マネジメントの本質: 自由と責任、そしてリーダーシップ

(酒井)社内で新しい事業を立ち上げる際、リーダーシップや組織の中での役割はどのようになるのでしょうか?

(大久保)まず企業で考えると、リーダーやフォロワーの関係が非常に重要です。実際にリーダーだけでは事業は成立しません。それは間違いない事実です。

(酒井)フォロワーシップの大切さについて教えてください。

(大久保)もちろん、リーダーが方向性を示すことは大切ですが、フォロワーがその方向に共感し、積極的に参加しなければ、事業は成功しません。フォロワーシップは事業を成長させるための重要な要素です。自信を持ち、ポジティブに物事を捉えることは、より良い成果を出すために必要です。特に自信がないと、他者の足を引っ張るような行動に出やすくなります。一方、自信があり、ポジティブに考えることで、前向きな行動をとることができます。

(酒井) そのようなマネジメントを徹底することで、組織内のハラスメントなどの問題も減少すると感じますか?

(大久保)ほとんどの組織で昔はハラスメントの問題が散見されたとは思います。しかし、適切なマネジメントと職員一人一人の意識の向上により、そのような問題は大幅に減少しています。事業を進める上で、権限委譲は非常に重要です。マネジャーやリーダーは、部下やメンバーに適切な権限を持たせ、それを信頼して任せることが必要です。しかし、それだけでは足りません。部下やメンバーが自らの役割や責任をしっかりと理解し、それを基に行動することが大切です。

マネジメントの新しい形 – 権限委譲とは

(酒井)「権限委譲」について詳しく教えてください。

(大久保)権限委譲とは、部下に一定の範囲の決定権を持たせ、自分たちで判断し行動することを奨励する考え方です。大きな方向性やホールだけ決めて、あとは部下に自らの判断で進めてもらうのです。実は密に見守りながら、部下の行動を信頼しています。全てを細かく管理するのではなく、時々チェックし、必要な場面でサポートを提供します。

(酒井)それは効果的なのですか?

(大久保)非常に効果的です。この方式で、部下は自分の仕事に対するプライドや責任感を持ち、より良い成果を上げることができます。また、成功した際には、その経験を共有し、他のメンバーにも参考として活用してもらうこともできます。新入社員や経験が浅いメンバーにも同じアプローチが適用でき基本的には同じ考え方を適用します。新人には基本的な仕事をまず任せ、成果を出す過程でサポートします。この経験を通じて、仕事の面白さや深さを実感し、自分の力で成果を出す喜びを得ることができます。

 

現代のマネジメントにおける課題とソリューション

(酒井)マネジャーとして若手の人材を育てるときの悩みや課題は何がありますか?

(大久保) 今、マネジャーはアシスタントや新人を育てる際、何かと悩むことが多いですね。成果を求められる一方で、どれだけサポートや指導をすれば良いのか、というジレンマがあります。例えば、新人がひとり立ちするまでの時間。技術職などでは、3〜5年とも言われますが、実際のビジネスの現場では、多くの企業は2年程度を期待しています。それに、新人が1年経過すると、次世代の新入社員が入ってきますから、彼らに先輩としてのアドバイスも求められるわけです。

(酒井)では、マネジャーとしてのスキルや心得は?

(大久保)忍耐力が必要ですね。権限委譲したら、ちょっと口を出したいときも我慢して見守ることです。そして、部下とのコミュニケーション。事の本質を見抜く力、そしてそれを伝える方法を知ること。部下が困った時、どのタイミングでアドバイスをするか、それを見極める能力も必要です。

(酒井)理事を務められている産業ソーシャルワーカーの存在は、この問題を解決する手段の一つと言えるのでしょうか?

(大久保)そう考えています。私が産業ソーシャルワーカーの活動を支援してきた背景には、マネジャーの悩みや課題を解決するという思いがあります。彼らはマネジャーの苦しんでいる現場を理解し、必要なサポートを提供する専門家です。産業ソーシャルワーカーの活動はまだ始まったばかり。しかし、彼らの役割が今後さらに重要になると感じています。企業が成長し、マネジャーの役割が進化する中で、彼らのサポートが不可欠となるでしょう。