協会サポーターのご紹介

2023.12.04

ソーシャルワーカーと企業
新しい波を求めて

小笠原耕司 氏

小笠原国際総合法律事務所

東京銀座法律事務所代表弁護士を経て、平成16年弊事務所代表弁護士。一般社団法人 産業ソーシャルワーカー協会 理事他 労働紛争を未然に防ぐための予防法務アドバイスを始め、労働法務分野における法改正にも精通し、企業や自治体での講演会も多数実施。

ソーシャルワーカーと企業 – 新しい波を求めて

(酒井)
本日は、産業ソーシャルワーカーの取り組みに焦点を当てたいと思っております。その背景や取組みについて詳しく教えてください。

(小笠原)
私自身、学校や病院でのソーシャルワーカーの活動やその必要性はもともと認識していたのですが、海外のような産業や企業向けのソーシャルワーカーというものはあまり馴染みがありませんでした。しかし、考えてみると学校や病院でソーシャルワーカーが活躍していることを鑑みると産業や企業向けのソーシャルワーカーの必要性があると感じました。産業ソーシャルワーカーは、働く個人が抱える多様で複雑な問題に向き合い、関係者と連携しながら解決に導いていくことでトラブルを未然に防ぎ、一人一人の仕事と生活の調和を実現し、企業の生産性向上に寄与する専門家です。アメリカにおいては古くから産業ソーシャルワーカー(industrial social worker)という専門家が活躍してきましたが、未だに日本では産業ソーシャルワーカーは認知が進んでおらず、現実として機能しているとは言えません。そこで私自身が取り組んでいる労働法分野の延長線であると考え、一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会の理事に就任致し、普及活動に取り組んでおります。


 

(酒井)
日本は他国に比べて、産業ソーシャルワーカーの普及が遅れている印象があります。実際どのように感じておりますでしょうか。

(小笠原)
はい。他国に比べて完全に遅れていると考えております。
実際、企業の人事や労務担当者は大変な苦労をしていらっしゃるのではないでしょうか。
本来は企業内等に産業ソーシャルワーカーが存在すれば解決できる問題も多くあると思いますが、現在は企業の人事や労務担当者が対応している状況にあると思います。
日本では公的な団体や政府の取り組みが遅れており、産業ソーシャルワーカーの活躍の場を提供できていません。その結果、民間での活躍の場が醸成されず、多くの労働問題が存在していると思っております。だからこそ、もっとソフトな形で、民間での活躍をしてくれるソーシャルワーカーという人材が必要だと個人的に考えております。

現代社会における労働問題やハラスメント等の対策における重要性について

(酒井)
これらの対策としては未然に予防するというイメージでしょうか?


 

(小笠原)
まさしくその通りですね。例えば近年では発達障害に関する話題が増えていますよね。この話を例にすると、専門的な知識や経験を持ったソーシャルワーカーや医療関係者が連携し、その認識を持って接することが重要です。事前に認識をすることができれば予防策も講じることができ、本人も治療に専念できることから企業としても生産性の向上に繋がります。発達障害のある従業員がいる場合、その従業員が自らの障害を認識していないと、周りの人々とのコミュニケーションが難しくなることもあります。しかし、適切な知識と理解を持てば、問題が生じた際の対処方法も変わってくるため、労働問題やハラスメント等の予防に繋がると考えています。

(酒井)
中小企業や大企業におけるソーシャルワーカーの配置はどのように考えておりますでしょうか?

(小笠原)
まず大企業には必ず配置するべきだと思います。中小企業でも100人以上の規模になれば導入を検討すべきであると考えております。

(酒井)
昨今、大きな社会問題となっているビックモーターやジャニーズ事務所で報道されているハラスメントについての個人的な考えはいかがでしょうか?

(小笠原)
ハラスメントの認識は、近年の法制化を経て、大きく変わりました。しかし、何でもハラスメントという風潮も一部で散見されるため、正確な認識と適切な対応が求められています。昨今でもハラスメントに関する裁判は減っておらず、多くの問題を抱えているため、企業は、原因と対策を明確にし、ハラスメント対応窓口を設置し、適切に活用すべきであると考えています。


 

働きやすい社会と組織:対策と未来への展望

(酒井)
企業の中でブランド価値が下がる問題としてもハラスメントが注目されています。ハラスメントに関する明確な罰則についてはどのような考えですか?

(小笠原)
確かにハラスメント行為に対する罰則規定の強化は必要だと思います。著しく度が過ぎているものについては、暴行・脅迫・恐喝などの刑事罰があります。もう少しグレーゾーンのような行為に対する罰則をどう設けるかは難しいところですが、何らかのペナルティーを明確にすることは重要だと思います。そこで各企業は、就業規則にハラスメント行為に対する罰則規定を追記することで企業独自の規定で一定の予防ができると考えております。

(酒井)
なるほど。就業規則の中で明確にハラスメント規定を設けることで、各企業内で罰則を設けてハラスメント行為を予防するというわけですね。

(小笠原)
そうです。昔の就業規則には、ハラスメントの項目は存在しなかったので、この問題に対してハードルが高かったのです。ハラスメントに関する懲戒規定等を就業規則に入れることで、解雇や配置転換などの懲罰規定を明確にした体制にする。ところが、意外と取り組んでない企業が多くて問題が起きたときには懲罰できなくて困るケースが散見されます。だからこそ現代のハラスメント問題を解決するためには、就業規則を改正し、ハラスメント規定を設ける必要あると考えております。

(酒井)
最後に質問です。働きやすい会社、組織はどのようなイメージですか?

(小笠原)
まず、経営者が働く人にとって快適な環境を整えることでしょうか。産業ソーシャルワーカーを始めとしたハラスメントやその他の労働上の問題に対応できる窓口や体制の確立が必要です。また、公益通報の窓口の強化も大事。要するに、従業員が安心して自分の意見や悩みを話せる場を設けることが、良い会社を作る一つの鍵になると思います。