2025.09.12

【2025年最新決定版】職場ハラスメントの実務ガイド(ハラスメント種類・一覧整理)

読み解くハラスメント〈線引き〉と、現場を守る運用術

名前が先に走る時代です。ロジハラ……。ラベルが増えるほど、現場は「どこからがアウトか」を見失いがちになります。本稿は、流行語を並べる記事ではありません。法に根ざした判断軸で「何が、なぜ、どの条件でハラスメントになるのか」を解きほぐし、2025年の改正点を織り込みながら、経営者・人事・現場管理職が今日から回せる実務の型までを一気通貫で提示します。

 


はじめに──ラベルではなく〈条件〉で見る

最初に、混乱を減らすための三つの原則を共有します。第一に、職場のハラスメントは広く民法上の不法行為になり得ます。第二に、法令・指針で定義が与えられ、企業に防止措置が義務付けられている領域(パワハラ、セクハラ、妊娠・出産等、育児、介護)と、俗称として使われる領域(フキハラ等)を分けて扱うこと。第三に、評価の起点は「具体的な言動」「影響」「就業環境の悪化の有無」であり、ラベルの可否ではありません。厚生労働省の総合ページでも、パワハラの三要素やセクハラの二類型といった判断枠組みが整理されています。

 


1.法令で定義され、〈措置義務〉がある領域

1-1 パワーハラスメント

パワハラは「優越的な関係を背景に」「業務上必要かつ相当な範囲を超え」「就業環境を害する」言動の総称です。代表的な六類型(身体的攻撃、精神的攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)は、あくまで判断の手がかりです。例えば、人前での長時間叱責の反復、達成困難な目標の強要、私生活の過度な詮索、仕事を与えないといった運用は、三要素に照らして評価されます。詳しい基礎整理は厚労省の特設サイトと「パワハラ六類型」ページを参照してください。https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/foundation/pawahara-six-types/

1-2 セクシュアルハラスメント

定義は二つの類型で示されます。対価型(拒否・応諾を理由とする不利益)と、環境型(性的言動により就業環境が不快なものになる)。冗談や称賛のつもりでも、反復・場所・関係性・拒否後の継続といった要素で環境型に該当し得ます。詳細は厚労省の基礎ページに明記されています。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

1-3 妊娠・出産等に関するハラスメント(いわゆるマタハラ)

妊娠・出産・つわり・健診等や、制度の申出・利用に関連する不利益取扱い、否定的言動による就業環境の悪化などが対象になります。人事評価や配置を決める前に、本人の意思確認と安全配慮の議論を丁寧に行うことが重要です。

1-4 育児に関するハラスメント(いわゆるパタハラを含む)

育休・時短等の制度利用やその申出を理由とする不利益、または否定的言動が該当します。男女を問わず対象であり、相談体制・教育・評価基準の見直しをセットで設計するのが運用の基本です。

1-5 介護に関するハラスメント(ケアハラ)+2025年の新義務

介護休業や両立支援制度の申出・利用に関する不利益や否定的言動が対象です。加えて2025年4月1日からは、介護離職防止のため「個別の周知・意向確認」と「雇用環境整備」が事業主の義務になりました。40歳前後からの早期情報提供も求められます。制度と運用例は特設サイトにまとまっています。https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf

 


2.俗称として流通する10領域――「起こりやすい状況」と〈線引き〉

ここからは法に定義があるわけではないが、実務上の争点になりやすい領域を、起こりやすい状況とともに読み解きます。判断の視点は「具体的言動」「影響」「就業環境への効果」です。

モラハラ(モラルハラスメント)

人格を貶める発言、冷笑、無視、情報遮断など、言葉と態度で相手の自己効力感を削る行為。上下関係に限らず同僚間でも起こり得ます。反復性と場面(公衆の面前か、記録が残るか)が評価の鍵です。

フキハラ(不機嫌ハラスメント)

無言の圧、ため息、物に当たる、無視。組織は言葉以外でも傷つきます。常態化し、周囲の萎縮や報連相の断絶を招くなら、パワハラの「精神的攻撃」類型に接近します。

ジェンハラ(ジェンダー)

「男性だから」「女性だから」と役割を固定し、割り振りや評価で差別的な扱いをすること。SOGI(性的指向・性自認)への無理解、アウティングも重大な問題につながります。ケースによってはセクハラや個人情報の問題として扱われます。

ロジハラ(ロジカル)

正論を武器化し、反論の機会を与えず詰め続ける。論理のミスを指摘すること自体は指導ですが、人格攻撃や公開の場での論破は「精神的攻撃」に該当し得ます。

テクハラ(テクノロジー)

ITリテラシーの差を嘲笑し、わざと高度な作業を押し付ける。育成目的の負荷か、排除目的の負荷か。意図と記録が分水嶺になります。

ジタハラ(時短)

業務量を据え置いたまま「残業禁止」を命じ、事実上サービス残業を強いる。働き方改革の看板と現場の実態が乖離すると、過大な要求や賃金不払いの問題に発展します。

ホワハラ(過剰配慮)

善意ゆえに成長機会を奪う。軽微な業務しか与えない、評価の対象から外す。過小な要求(パワハラ類型)との境界に注意が必要です。

アルハラ(アルコール)

飲酒の強要、酩酊を招く指示、飲めない人への嘲笑。職場外の場でも、職務関連性のもとで起きた行為は評価の対象です。

スメハラ(スメル)

強い臭気(タバコ、香水等)を放置し、周囲に苦痛を与える。注意後も改善されない、業務に支障が出る、といった要素の蓄積がポイントです。

ハラハラ(ハラスメント・ハラスメント)

正当な注意や評価を「ハラスメントだ」と濫用的にカウンターする行為。指導の記録、目標設定の妥当性、合意形成のプロセスを整えておけば、誤爆を減らせます。

 


3.2025年の重要アップデート

3-1 カスタマーハラスメント対策が〈義務化〉

2025年6月11日公布の改正(令和7年法律第63号)により、顧客・取引先・施設利用者等からの社会通念上許容されない言動で従業員の就業環境を害する「カスタマーハラスメント」への防止措置が事業主の義務になりました(施行は公布から1年6か月以内の政令日)。制度の骨子は厚労省の総合ページおよび改正特設ページを参照ください。
改正特設:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00003.html
併せて、企業向けの実務マニュアルも公開済みです:https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000894063.pdf

3-2 求職者等へのセクハラ(いわゆる就活セクハラ)対策も〈義務化〉

同改正により、採用・インターン・選考過程での求職者等に対するセクハラ防止措置が義務化されました(施行は同上)。採用現場のルール化、苦情受付ルートの明示、面接官研修の標準化が不可欠です。
現場啓発用リーフレットも公開されています:https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001168055.pdf

3-3 「自爆営業」への明確化(パワハラ指針への位置付け予定)

2025年3月、厚労省は「労働者に対する商品の買取り強要等(いわゆる自爆営業)」の問題点を整理したリーフレットを公表しました。使用者の優越性を背景に自社商品の購入を事実上強いる、不達成を口実に不利益を与える、達成困難なノルマの設定などが、民法・労基法・労契法上の問題となり得る旨が具体例とともに示されています。販売ノルマ運用の総点検を推奨します。
リーフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001462034.pdf :contentReference[oaicite:8]{index=8}

3-4 介護両立支援――2025年4月1日からの個別周知・意向確認の〈義務化〉

介護に直面した労働者への個別周知・意向確認、雇用環境整備、早期(40歳等)での情報提供――これらが義務化されています。書式・面談・記録の標準化と、上長の面談技法研修をセットで導入してください。
特設サイト:https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/
改正ポイント:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001259367.pdf

 


4.企業が負うリスクは「見える損失」と「見えない損失」

損害賠償や弁護士費用は分かりやすいコストです。しかし、より致命的なのは「生産性の毀損(萎縮・報連相断絶)」「離職・休復職コスト(熟練の喪失)」「採用難・求人費の増加」「行政からの指導・勧告・企業名公表による信用失墜」「対応の人件費(調査・聴取・証拠保全・外部専門家)」といった見えない損失が雪だるま式に膨らむこと。義務化された措置の未整備は、体質評価そのものを下げます。基礎情報は厚労省の対策ページを確認してください。

 


5.防止を仕組みにする――〈方針・体制・教育・運用〉の四点セット

「方針」は短いほど強い。就業規則や社内ポータルに、対象行為、相談ルート、不利益取扱い禁止、一次対応のSLA(目安は『72時間以内に一次対応』)を明記します。「体制」は複線化。内部と外部を組み合わせ、匿名・夜間受付を用意します。「教育」は管理職の面談技法(叱責ではなく合意形成)と、全社員の基礎eラーニングを年次化。「運用」は記録・証拠保全・聴取の独立性、再発防止のPDCAまでを一続きに設計します。基礎となる措置義務は厚労省のガイダンスに整理されています。

 


6.通報が来たらどう動くか――一次対応フレーム『PEACE』

属人的な「勘」から脱出するために、一次対応の手順を『PEACE』で統一します。P=Protect(保護)で空間・業務の分離と心身ケアへ接続。E=Evidence(証拠保全)でチャット・メール・勤怠・指示書・席配置などの散逸を防ぐ。A=Assess(事実確認)で当事者・関係者の個別聴取を行い、誘導を避け、日時・文言・頻度を特定。C=Correct(是正)で配慮措置・配置・指導・懲戒等を検討。E=Educate(教育)で再発防止の学び直しとメッセージ設計までを閉じます。一次対応は「72時間以内に開始」を社内SLA化すると、二次被害と風評拡大を抑えられます。

 


7.現場で頻出する〈誤解〉に答える

「叱るとパワハラと言われそうで何も言えない」――指導はアウトではありません。問題は、反復・公開の辱め・人格否定・達成不能な要求などが重なることです。言葉を「事実→影響→期待行動→支援」の順に組み立て、面談は原則1対1で記録を残しましょう。

「容姿を褒めただけ」――称賛でも、反復・場・関係性次第で環境型セクハラに該当し得ます。拒否表明後の継続はほぼアウト。評価は「成果・行動」へ寄せるのが安全です。

「育休復帰だから軽い仕事だけに」――善意でも、一律の戦力外配置は疎外の評価につながります。本人の意思・配慮事項・安全面を面談で擦り合わせ、段階的復帰を合意形成しましょう。

「介護の状況を聞くとケアハラ?」――支援設計のための必要最小限のヒアリングは適法です。2025年4月からは個別周知・意向確認が義務化されています。

 


8.【社内掲示用ミニ方針】そのまま貼れる短文

「当社は、パワハラ・セクハラ・妊娠出産・育児・介護に関するハラスメント、ならびにカスタマーハラスメントを許しません。相談は人事窓口および外部ホットラインで受け付けます。通報者・協力者への不利益取扱いを禁じます。一次対応は『72時間以内に開始』します。」

 


9.参考リンク(一次情報)

 


おわりに――「罰する仕組み」だけでは職場は変わらない

ハラスメント防止は、違反を摘発するためだけの制度ではありません。大切なのは「異なる価値観を持つ人が、安心して合意形成できる場」をつくること。方針・体制・教育・運用の四点を、今日から小さく始めてください。法令対応は土台であり、信頼と生産性はその上に築かれます。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別案件の法的判断を確約するものではありません。疑義がある場合は、社労士・弁護士・産業医等の専門家にご相談ください。

 

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