2025.09.11
三井住友銀行が「男性の約1か月育休」を原則必須化へ
本人と同僚に報奨金5万円、職場ぐるみで“取りやすさ”をつくる新発想
三井住友銀行(SMBC)が、男性社員の育児休業(育休)取得を原則1か月確保する方針へと踏み込みました。開始は10月。特徴的なのは、育休当人だけでなく、カバーに回る所属部署の同僚側にも5万円の報奨金を支給する点です。対象は約2万4千人の全社員で、女性の育休取得にも同様の報奨金が適用されます。
これまで同社は、無条件で最長1年半の育休を認めつつ「取得は推奨」という立て付けでした。男性の取得率は2023年度に100%へ到達した一方、平均日数は12日と社内目標の30日には届いていません。今回の制度は「率」から「日数」へ、さらに“職場ぐるみ”で取得を祝う文化を作る試み、と位置づけられます。(出典:読売新聞オンライン 2025/09/11)
なぜ“同僚にも”報奨金なのか──インセンティブ設計の妙
育休は制度として存在しても、現場では「抜けた穴を誰が埋めるのか」という暗黙の圧力が壁になりがちです。今回の設計は、休む人と支える人を同時に称えることで、罪悪感と遠慮を解消し、チーム全体で前向きにカバーし合う“お祝いムード”を醸成する狙いがあります。
報奨金は取得促進のナッジ(後押し)であると同時に、業務分担の一時的な負荷増への実質的な補填の意味合いも持ちます。人材獲得や定着を左右するのは「制度の有無」だけでなく、現場で気持ちよく使えるかです。そこに資源を投じた意義は大きいでしょう。
男性育休「30日」の意味──働き方の標準を塗り替える
日本企業で広がってきた“数日の男性育休”から、「1か月」を当たり前にするフェーズへ。これは単なる福利厚生の強化ではありません。業務設計・権限移譲・情報共有の再設計を迫る、働き方の標準の書き換えです。
短期の不在なら「気合い」で回せても、1か月となるとプロセスの属人化を解消しなければ持ちません。引継ぎテンプレート、意思決定ラインの見直し、代理権限の明文化、業務の二重化(バックアップ担当)など、組織運営の成熟度が問われます。裏返せば、男性育休の本格化は生産性向上と事業継続性(BCP)強化のドライバーにもなり得ます。
現場運用のカギ──「休む技術」をチームで鍛える
制度を活かし切るには、現場での“休む技術”が欠かせません。具体的には次のような手順が有効です。
① 60-30-7日プラン: 育休開始60日前に担当業務を棚卸し、30日前に引継ぎ資料を完成、7日前に最終リハーサル。
② 代理権限の可視化: 稟議・発注・対外コミュニケーションの代理範囲を明文化し、社内外に周知。
③ 情報の「個人→チーム」移管: 個人ドライブを廃し、チーム共有(プロジェクトルーム、ナレッジベース)へ。
④ 週次の負荷モニタリング: カバー担当の残業・案件数を可視化し、必要に応じて一時リソースを追加。
⑤ 復帰オンボーディング: 復帰初週は「情報キャッチアップ」に時間を確保し、急激なフル稼働を避ける。
こうした運用が定着すれば、誰が抜けても回るチームへと進化します。これは育休に限らず、病気・介護・学び直しなど様々なライフイベントに対応できる、持続可能な組織の条件です。
公平性と納得感──制度の“副作用”を最小化する
報奨金の設計では、公平性・透明性・過度な負荷回避がポイントです。例えば、対象範囲や配分のルール、カバーに伴う業務量増をどう吸収するのか、繁忙期の計画取得の優先順位など、現場の納得が得られる運用指針が必要になります。
また、育休を取らない/取れない社員が不利益を被らないよう、評価やアサインの運用上の配慮も不可欠です。制度趣旨は「子がいる・いない」で待遇を分けることではなく、誰もがライフイベントを安心して迎えられる職場づくりにあります。
他社への示唆──「率」ではなく「質」で勝負する時代へ
男性育休の「取得率100%」はすでに到達点であり、これからは取得日数・タイミング・職場体験の質が競争力を分けます。SMBCの取り組みは次の示唆を与えます。
・当人とチームを同時に称えるインセンティブは、文化づくりの強力な触媒になる。
・「1か月」を標準にすることで、属人化解消と業務の再設計が一気に進む。
・制度を「回せる」組織は、採用マーケットでの発信力・内定承諾率・再入社(アルムナイ)など、人材面のリターンを享受しやすい。
男性育休の拡充は、企業の魅力そのものを底上げし、顧客・投資家・採用候補者に対する強いメッセージになります。
まとめ──休める会社は、強い
「休む=迷惑」から、「休む=チームで支え合う」に発想を転換できるか。SMBCの「本人+同僚に報奨金」という設計は、職場ぐるみで祝うという文化のスイッチを押すものです。
制度の本当の価値は、使われた回数ではなく、使ったときに皆が笑顔でいられるかで決まります。休む技術を磨くことは、同時に強い組織をつくる技術でもあります。今回の動きが、金融業界のみならず幅広い業種に波及し、“1か月が当たり前”という新しい働き方の標準を形づくっていくことを期待したいところです。
出典:読売新聞オンライン「三井住友銀行、男性社員の1か月育休取得を必須に…本人と同僚に5万円の報奨金」(2025/09/11)。
本記事は報道を基にした解説です。制度の詳細(適用条件・配分方法等)は企業の公式発表・社内規程に従います。
