2026.01.24

厚労省カスハラ指針案をどう実装するか。「正当な苦情」と「大声威圧・土下座強要」を分ける現場設計へ|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】「大声で威圧」「土下座強要」はカスハラ…厚労省が対策指針案、該当例を明示


厚労省が企業向け「カスハラ対策指針案」を取りまとめ

顧客などから理不尽な要求や暴言を受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)をめぐり、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会は2026年1月20日、企業向けの対策指針案を取りまとめました。指針案は、大声での威圧や土下座の強要など、カスハラに該当する具体例を示し、企業に対して備えを促す内容です。

背景には、改正労働施策総合推進法の施行が見込まれていることがあります。法改正により、事業者は従業員をカスハラから守る対策を講じることが義務化されます。厚労省は義務化に向けて、企業が準備を進められるよう、初めての対策指針を近く策定する方針とされています。


定義は「許容範囲を超え、就業環境が害される言動」──苦情すべてがカスハラではない

指針案では、カスハラを「社会通念上の許容範囲を超え、従業員の就業環境が害される顧客の言動」と定義しています。同時に、苦情のすべてがカスハラに当たるわけではなく、正当な申し入れなどはカスハラではないことも明記されました。

ここは実務上、とても大きなポイントです。企業側が「何でもカスハラ」と言い出せば、消費者の正当な権利を萎縮させ、逆に炎上や信頼毀損を招く可能性があります。一方で「お客様だから」と暴言や威圧を放置すれば、従業員のメンタル不調や離職を招き、サービス品質が崩れます。指針案は、この二つの極端の間に、社会としての線引きを置こうとしています。


具体例を明示──「大声で威圧」「土下座の強要」など

指針案は、カスハラに該当し得る行為の例として、大声で威圧すること、土下座を強要することなどを示しました。何が「一線を超える行為」なのかを具体例として提示したことは、現場の判断を支える意味で重要です。

さらに企業に対し、職場での対処方針の策定、被害相談に対応できる体制整備を進めることを求めています。悪質なケースでは、警察への通報や店舗・事業所への出入り禁止などの措置を検討するべきだとも示されました。対応を現場任せにせず、会社として「断る」「守る」を実装せよ、というメッセージです。


同日、「就活セクハラ」指針案も取りまとめ──規定と懲戒の整備を求める

分科会ではこの日、就職活動中の学生などに対する性的嫌がらせ「就活セクハラ」への対策指針案も取りまとめられました。企業に対しては、就業規則などで規定を明記し、被害が確認された場合には加害者の懲戒処分などを適正に行うよう求めています。

就活セクハラは「社内の弱者」ではなく「社外の弱者」が対象になりやすく、発覚しにくい領域です。カスハラと同様に、規定整備と相談体制、調査・処分プロセスが不可欠であることが確認された形です。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──指針は“紙”ではなく「現場の運用」に落ちて初めて効く

厚労省の指針案は、カスハラ対策を企業の努力義務から実務の必須領域へ押し上げる重要な一歩です。ただし、指針は読んだだけでは職場を守れません。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点では、実装の鍵は次の3点にあります。

第一に、「正当な苦情」と「カスハラ」の分岐点を現場で再現できる形にすることです。抽象的な定義だけでは、現場は迷います。具体例を追加し、対応フローに落とし込み、「この態様なら終了」「この態様なら管理者同席」「この態様なら通報」という判断を共有する必要があります。

第二に、従業員を一人にしない体制です。クレーム対応の孤立が、心身の不調と離職を生みます。複数対応、管理職同席、専門部署へのエスカレーション、録音・記録の運用など、「一人で抱え込まない」仕組みを会社の標準にすることが重要です。

第三に、対外メッセージの設計です。「カスハラは拒否する」と同時に、「正当な意見・要望は歓迎する」という姿勢を明確にしなければ、顧客との対立だけが残ります。方針を掲示し、説明し、守る。言いにくいことを言う代わりに、言うべきことを丁寧に言う。これが信頼を守るカスハラ対策の本質です。


結語:線引きは「厳しさ」ではなく「公平さ」で成り立つ

「大声で威圧」「土下座強要」がカスハラであることは、いまや常識になりつつあります。しかし現場では、その一歩手前のグレーゾーンが最も対応を難しくします。だからこそ、国の指針を起点に、企業が自社の業態に合わせた運用ルールを整えることが不可欠です。

一般社団法人クレア人財育英協会は、カスハラ対策を「従業員を守るための防御」にとどめず、「正当な苦情をきちんと受け止めながら、暴力的要求は断る」公平な仕組みとして実装する支援を続けていきます。

お申し込みはこちら