2025.12.23

新人との出張運転はハラスメントか──「お願い」と「強要」の線をどう引くか|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】


新人社員と車で出張「運転代わって」と頼むのはハラスメントなの?(発言小町まとめ)


ケース概要──40代女性営業と40歳新人男性社員の「運転交代」トラブル

読売新聞のユーザー投稿サイト「発言小町」に寄せられた相談が話題になっています。投稿したのは営業職の44歳女性。入社2か月の40歳の男性社員と車で出張に出かけ、自分が運転していたところ、高速道路移動中に顧客から電話が入りました。

そこでパーキングエリアに入り、「運転を代わってもらえないか」と新人社員に頼んだところ、「高速に慣れていないし、運転すると聞いていない」と断られたといいます。投稿者は「高速での運転があることは入社前に伝えている」という認識でしたが、後日、上司から「彼が『ハラスメントを受けた』と言っている。配慮してやってほしい」と注意され、「これがハラスメントなのか」と納得がいかない、という相談内容です。


ユーザーの反応──「ハラスメントではないが準備不足」「何でもハラスメントは違う」

発言小町のユーザーからは、さまざまな意見が寄せられました。

「慣れない社用車で、慣れない高速道路を『突然運転して』と言われたら困る。あらかじめ運転の習熟度を確認し、運転の必要性を前もって共有すべきだった」という、男性社員の不安に一定の理解を示す声があります。「自分も運転が苦手なので、突然の交代要請に戸惑う気持ちはわかる。ハラスメントというのは大げさだが、世の中にはそう感じる人もいると理解してほしい」といったコメントもありました。

一方で、「これをハラスメント呼ばわりするのはさすがに行き過ぎ」「やりたくない仕事を頼まれたら全部ハラスメントというのか。キリがない」という厳しい意見も少なくありません。「上司は『配慮してやって』という言い方で、実は『少し扱いにくい人だからうまく付き合って』というニュアンスも含めているのでは」「会社はハラスメント申告に耳を傾けた、という事実を残したいのだろう」と読む声もありました。

また、「運転に自信のない人を営業職に採用した側の問題もあるのではないか」「今後のトラブルを避けるためにも、上司や人事に『運転に関する業務設計』自体を相談しておいた方がいい」と、組織設計の観点からのコメントも見られます。


「これはハラスメントか?」をどう考えるか──線引きのポイント

一般的に、パワーハラスメントかどうかは「優越的な立場を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超える」「相手に精神的・身体的苦痛を与えたり、就業環境を害したか」といった要素で判断されます。このケースでは、

・営業職として運転が業務の一部である可能性があること。
・やむを得ない事情(高速運転しながらの電話対応は危険)からの依頼であること。
・一度断られた後、強い叱責や人格否定などは行っていないことが読み取れること。

といった点から、「法律上のパワハラとして明確にアウトと言い切れるケースとは言えない」と考える専門家も多いでしょう。一方で、

・入社2か月で会社や仕事にまだ慣れていない。
・40歳という年齢ゆえに「できて当然」と見なされやすい。
・運転への不安や過去の事故歴など、本人に言いづらい事情があった可能性。
・本人が「ハラスメントだ」と感じ、上司に訴えている。

といった要素を考えると、「言われた側は負担や恐怖を感じている」こともまた事実です。つまり、「ハラスメントか、ゼロか」という白黒ではなく、「業務上の依頼としては理解できる部分もあるが、事前説明や信頼関係の不足があった」というグレーゾーンだと言えそうです。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──「お願い」と「強制」を区別する設計を

このケースから見えるのは、「業務として当然の依頼」と「本人には重すぎる負担」の境界が、以前よりもずっと繊細になっているという現実です。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点で言えば、ポイントは次の三つです。

第一に、「運転」という行為のリスクと業務性をどう扱うかです。営業職だからといって、すべての社員が高速運転や長距離移動に同じように適性があるわけではありません。採用段階や配属時に、運転の経験・得意不得意・健康状態などを確認し、「運転も業務の一部である」なら、それを前提にした教育や割り振りを行う必要があります。

第二に、「お願い」と「強制」の区別を、組織として言語化しておくことです。一度頼んで断られたときに、その場で叱責するのではなく、「では今回は自分が運転を続けるが、今後どうしていくのがいいか一緒に考えよう」と後日対話の場を設ける。これだけでも、ハラスメントと受け止められるリスクはぐっと減ります。「断ってもいい」という合意があるかどうかは、現場の心理に大きく影響します。

第三に、上司側が「ハラスメントと言われた=自分が悪い」と受け止めて防御に回るのではなく、「何に不安を感じたのか」「どこがきつかったのか」を聞き取り、上司自身も会社に相談できるルートを持つことです。ハラスメントの構造は、上から下だけではなく、役割の曖昧さ・教育不足・採用と業務設計のミスマッチといった組織要因とセットで起きます。個人同士で“性格の問題”としてやり合うのではなく、人事・安全衛生・教育と一緒に「運転を含む営業の仕事の設計」を見直す契機にするべきでしょう。


結語:「何でもハラスメント」と「何もハラスメントじゃない」の間で

「やりたくない仕事を言われたら全部ハラスメントなのか」「何でもかんでもハラスメントと言うのはおかしい」という声は、現場でもよく聞かれます。一方で、「自分は普通に頼んだだけ」という感覚が、相手にとっては恐怖やプレッシャーになることも確かです。

大切なのは、「これはパワハラかどうか」というラベルを貼ることだけではありません。「なぜそう感じたのか」「どうすれば安全に、納得感をもって仕事を進められるか」を対話し、業務設計とコミュニケーションの両面で調整していくことです。ハラスメントの線引きは、働く人全員の“生きやすさ”と“働きやすさ”に直結します。雇用クリーンプランナー(KCP)は、「何でもハラスメント」「何もハラスメントじゃない」という両極から一歩引き、具体的な状況に即したルールと対話の仕組みづくりを支援していきます。

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