2025.12.24

松山大学ハラスメント訴訟をどう読むか──「行為」と「処分の手続き」を分けて設計する必要性|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】

ハラスメント認定も“弁解の機会なく処分は無効” 松山大学女子駅伝部元監督の訴えを認め大学側に約133万円の支払いを命令 愛媛・松山市


松山大学女子駅伝部元監督が懲戒処分取り消しを提訴、地裁は一部認容

松山大学女子駅伝部で監督を務めていた大西崇仁准教授が、大学から受けた停職45日の懲戒処分は不当だとして、処分の取り消しと停職中の賃金などの支払いを求めた裁判で、松山地裁は2025年12月23日、大西氏の訴えを一部認める判決を言い渡しました。

判決は、大西氏の指導の中にハラスメント行為があったことは認定した一方で、「本人に弁解の機会を与えることなく懲戒処分を行った手続きには重大な瑕疵がある」として、停職処分そのものは無効と判断しました。その結果、大学側に対し、停職期間中の賃金など約133万円の支払いを命じています。


「ハラスメントは認定、しかし懲戒手続きは違法」──判決が示した二つの軸

報道によると、松山大学は女子駅伝部の監督としての指導がハラスメントに該当するとして、大西准教授に停職45日の懲戒処分を科しました。これに対し大西氏は、懲戒処分の取り消しや約350万円の損害賠償を求めて提訴しました。

松山地裁の木村哲彦裁判長は、部員への言動について「ハラスメントに該当する」と認定しつつも、その後の懲戒手続きについては「本人に十分な説明や反論の機会が与えられていない」と指摘しました。つまり、行為の中身(実体)と、処分に至るまでの手続き(プロセス)を切り分け、「ハラスメント行為はあったが、懲戒処分のやり方が就業規則や懲戒規程に照らして適切ではなかった」という判断です。


原告側は「判決を真摯に受け止める」、大学側は「極めて不当」と控訴へ

判決後の会見で、大西准教授は「懲戒事由に値するという判断もあり、こちらの主張がすべて認められたわけではないが、判決を真摯に受け止めてやっていきたい」とコメントしました。自身の指導の一部がハラスメントと見なされたことを受け止めつつ、処分の無効が示されたことに一定の評価もにじませました。

一方で、原告側の倉茂尚寛弁護士は「大学側には、この判決を真摯に受け止め、自ら定めた規定を遵守する体制を徹底してほしい」と強調しました。ハラスメント防止を掲げるのであれば、同時に懲戒手続きの適正さも守らなければならない、というメッセージです。

これに対し松山大学は、「極めて不当な判断であり、到底受け入れられない」という声明を出し、控訴する方針を明らかにしました。今後は高裁の場で、ハラスメント認定と懲戒手続きの妥当性をめぐる議論が続くことになります。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──ハラスメント対応と懲戒手続きは「両方」守られてこそ信頼になる

今回の松山地裁判決は、学校・大学・企業・自治体を問わず、ハラスメント対応に取り組む全ての組織にとって重要な示唆を含んでいます。

第一に、「ハラスメントを決して許さない」という姿勢と同時に、「懲戒処分の手続きは公正に行う」という原則も守られなければならないという点です。どれほど問題のある言動があったとしても、本人に事実を伝え、意見や反論を述べる機会(弁明の機会)を与えないまま処分することは、法的リスクを生むだけでなく、組織の信頼性を損ないます。

第二に、規程をつくるだけでは不十分であり、「実際にそのとおり運用しているか」が必ず問われるという点です。多くの大学や企業がハラスメント規程・懲戒規程を整備していますが、事件発生時に手続きがショートカットされがちなのが弁解権や手続きの丁寧な説明です。今回のように裁判で無効とされれば、被害者側・加害者側の双方が「組織を信頼できない」という感覚を強める結果になりかねません。

第三に、指導者や監督・教員に対しては、ハラスメントを起こさないための研修と同時に、「問題が生じた時にどう対処し、どう説明責任を果たすか」という視点も求められることです。ハラスメント認定をきっかけに、指導スタイル・評価制度・コミュニケーションの仕方を組織としてアップデートできるかどうかが、その後の信頼回復を左右します。


結語:ハラスメントを見逃さないことと、処分を公正に行うことはセットで設計する

ハラスメントは被害者の心身を傷つけ、チームや組織文化を長期的にむしばみます。一方で、「疑いが出たら即アウト」とばかりに、手続きの手順を飛ばしてしまえば、別の意味で組織の公平性が揺らぎます。

今回の松山大学女子駅伝部の事案は、「ハラスメントだから厳しく処分すべき」という考え方と、「懲戒手続きは冷静かつ公正であるべき」という考え方の両方を、同時に満たさなければならないことを示しています。雇用クリーンプランナー(KCP)は、学校や企業が被害者保護と加害側への適正手続きの両立を図れるよう、規程づくりと現場運用の整合性を支援していきます。

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