2025.12.18
3次会セクハラが初の労災認定──大阪地裁が「断るのは困難」と判断、有期雇用女性の適応障害を業務起因と認定
【出典】毎日新聞(2025年12月15日配信)
3次会で上司からセクハラ、初の労災認定 大阪地裁「断るのは困難」
大阪地裁が国の不支給処分を取り消し、3次会セクハラを労災と認定
業務後の3次会で上司からセクハラを受け、休業を余儀なくされたとして労災認定を求めた訴訟で、大阪地裁は12月15日、休業補償給付を不支給とした国の処分を取り消しました。中島崇裁判長は、「女性が3次会への誘いを拒絶することは事実上困難な状況だった」と認定。
代理人弁護士によると、2次会・3次会など業務後の飲み会でのセクハラが労災として認定されたのは初めてとされています。
出張後の懇親会からガールズバー3次会へ──支社長がキスや身体接触を強要
判決によると、30代の女性ITエンジニアは、有期雇用6カ月の契約でIT関連企業の西日本支社に勤務していました。
2019年6月、東京出張を命じられ、本社主催の業務後懇親会(1次会)に出席。
その後、西日本支社長らと2次会・3次会に参加し、3次会はガールズバーで行われました。
この場で支社長の指示により、女性店員とのキスや身体接触を強要され、同月下旬には適応障害を発症したとされています。
「3次会は私的行為」でも、出張行程に組み込まれていたと判断
労災認定には、労働者が事業主の支配下にある状態で疾病が生じたかどうかが問われます。
労働基準監督署は、「3次会への参加は個人の意思によるもので、事業主の支配下とは言えない」として労災を不支給と判断していました。
しかし大阪地裁は、女性が出張前に支社長から業務後の日程を空けるよう指示されていた点を重視。
3次会自体は「業務そのものではなく私的行為」としながらも、「出張の行程に組み込まれていた」として、事業主の支配下にあったと評価するのが相当としました。
正社員登用への影響力が「断りにくさ」を生み、事実上の強制に
判決はさらに、支社長が有期契約社員だった女性の正社員登用に強い影響力を持っていた点を指摘。
将来の雇用やキャリアを左右し得る立場にある上司からの3次会の誘いは、形式上は任意でも、実質的には断りがたい状況だったと判断しました。
その上で、支社長の言動は女性の意に反する性的な言動=セクシュアルハラスメントに当たり、女性の適応障害は業務起因の労災だと結論づけています。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──「飲み会は自己責任」という常識を変える判決
今回の大阪地裁判決は、企業が長年「グレーゾーン」として扱ってきた業務後懇親会・2次会・3次会とハラスメントの関係に、明確な線引きを示したものです。
KCPは、判決のポイントを次の3点に整理します。
① 「業務外イベント」でも支配下になり得る
出張スケジュールの一部として位置づけられ、上司の指示や人事評価と結びつく飲み会は、形式的に「自由参加」としても実態は業務の延長と見なされ得る、というメッセージです。
② 有期雇用・正社員登用と「断りにくさ」
特に有期雇用・非正規社員にとって、上司の誘いを断ることは、評価や登用に影響するリスクを伴います。
今回の判決は、この構造的な「断りにくさ」を、労災認定の重要な要素として位置づけました。
③ セクハラは「個人間トラブル」ではなく安全配慮義務違反
ガールズバーでのキス強要などは、「たまたま羽目を外した」では済まず、企業の安全配慮義務違反・職場環境配慮義務違反として問われ得ることが明確になりました。
企業への実務的インパクト──「懇親会・3次会」の設計を見直すタイミング
今回の労災認定は、企業のコンプライアンスと人事戦略に直接影響します。
KCPは、企業が取るべき実務対応として、次のようなステップを推奨します。
1. 懇親会・飲み会の位置づけの明確化
・「業務の一部」とみなされ得る場(出張中の懇親会など)は、公式のイベントとしてルールを整備し、上司の言動に責任を持たせる。
・「完全な私的行為」とするなら、勤務時間・費用負担・人事評価との切り分けを明文化する。
2. ハラスメント防止研修で「飲み会シーン」を必ず扱う
セクハラ・パワハラ研修の中に、2次会・3次会・出張先の飲み会を想定したロールプレイやケーススタディを組み込み、
「どこからアウトか」「上司はどこまで誘っていいか」を具体的にすり合わせる。
3. 「断りやすさ」を制度に埋め込む
・「会食・飲み会・3次会への参加は義務ではない」ことを就業規則や社内ポリシーで明記。
・有期雇用・若手・少数者が、参加・不参加で不利益を受けないよう、評価と切り離す運用を徹底する。
「3次会だから自己責任」では、もう通用しない
今回の大阪地裁判決は、「業務後だから」「3次会だから」という言い訳を通用させない、重要な転換点です。
判決が示したのは、職場の力関係と構造の中で起きたセクハラは、時間と場所を問わず「仕事の延長」になり得るという現実です。
KCPは、企業がこの判決をきっかけに、飲み会文化と評価制度を見直し、誰もが安心して働き、断れる職場をつくる取り組みを支援していきます。
